「カスタマーサポートAI」とは、顧客対応業務におけるデータ分析・自動応答・タスク支援を行うAIの総称です。元々は問い合わせ対応やFAQチャットボットといったカスタマーサポート領域で使われてきましたが、近年は営業支援への応用が進んでいます。
特にSaaS企業やBtoB営業の現場では、問い合わせ対応のデータを“営業に活かせる情報資源”として活用する動きが加速しています。カスタマーサポートAIは、次のような機能を通じて営業の質とスピードを向上させます:
- リード情報の自動収集・分類:過去の問い合わせ履歴から商談候補を抽出
- 顧客の関心や課題の分析:チャット・メール内容をAIが自動で要約・分類
- フォローアップの自動提案:最適なタイミングや文面の提示
営業活動の中で、「誰に・いつ・どのような提案をするか」という判断は成果を左右します。カスタマーサポートAIは、それらの判断をサポートし、属人化を防ぎつつ、再現性のある営業活動を実現します。
実践!カスタマーサポートAI活用の具体例

ここでは、実際の企業でどのようにカスタマーサポートAIが活用されているのか、代表的な3つの事例を紹介します。現場での導入背景から施策、得られた成果までを分かりやすくまとめました。
ケース1:SaaS企業|問い合わせデータを“営業の武器”に変える
背景:
日々多くの問い合わせが寄せられるものの、それらの情報が営業チームと連携されておらず、貴重な顧客ニーズを取りこぼしていました。
施策:
チャットボットとAI分析ツールを導入し、問い合わせ内容を自動で分類。「機能改善」「料金プラン」「使い方の不明点」などの関心カテゴリを抽出し、営業チームへフィードバック。
結果:
営業資料やトークスクリプトが実際の関心内容に基づいて改善され、提案の的中率が向上。営業プロセス全体が顧客志向に進化しました。
ケース2:インサイドセールス|フォローアップ業務をAIがサポート
背景:
リード数の増加により、営業担当者が全ての見込み客にタイムリーに対応できず、商談化のチャンスを逃すケースが頻発していました。
施策:
AIを活用して、過去の成約データをもとにフォローアップの最適なタイミングや頻度を分析。さらに、顧客ごとに効果的なメール文面やテンプレートを提案する仕組みを構築。
結果:
営業担当は“いつ・どのような内容で”連絡すべきかをAIに任せることで、判断の負荷が軽減。対応スピードが改善され、結果的に商談数の増加に寄与しました。
ケース3:BtoB企業|カスタマーサポート履歴をCRMに自動連携
背景:
営業とサポートの情報共有が限定的で、営業担当が顧客の課題や過去の問い合わせ履歴を把握できていない状態でした。
施策:
AIによって、サポート履歴の内容を自然言語処理で要約。CRMに自動で紐付けることで、営業担当は商談前にその顧客の履歴を確認できるように。
結果:
提案内容の質が向上し、クロスセルやアップセルのタイミングを逃さない体制が整いました。また、営業とサポート間の連携もスムーズになり、チーム全体のパフォーマンス向上にもつながりました。
顧客事例
自治体|住民対応の効率化と事業説明の標準化を実現
背景:
ある地方自治体では、デジタル化や新制度(例:マイナンバー関連、補助金申請、移住支援制度など)に関する住民からの問い合わせが急増。担当部署に電話が集中し、住民対応に追われて本来の業務が滞る状態でした。また、複数の課にまたがる制度説明の一貫性にも課題がありました。
施策:
自治体公式サイトにAIチャットボットを設置し、「よくある質問」や制度に関する案内を24時間自動応答できる体制を構築。加えて、住民の関心事や問い合わせ履歴を蓄積・分析し、移住・起業支援などの営業的アプローチが必要な住民(または法人)に対しては、窓口業務と連携してフォローを強化。
結果:
問い合わせの約70%をAIで一次対応できるようになり、担当者の対応時間が月あたり約100時間削減。問い合わせ内容をもとにパンフレットや制度説明会の案内内容も改善され、住民満足度が向上。地域おこし協力隊や移住促進施策への参加希望者も増加しました。
小売チェーン|店舗とECの顧客対応をAIで統合
背景:
全国に複数店舗を展開する小売チェーンでは、ECサイトと店舗の両方で商品に関する問い合わせが増加していました。しかし、店舗ごとの対応品質にばらつきがあり、メール・SNS・チャットなど多チャネル対応によってサポートチームが疲弊。営業施策(例:クロスセルやリピート施策)にも十分な工数が割けていない状態でした。
施策:
カスタマーサポートAIを導入し、ECサイト上にチャットボットを設置。商品説明・在庫確認・配送状況の自動回答を実現したほか、購買傾向をもとに「おすすめ商品のレコメンド」や「次回クーポンの提案」もAIが実施。問い合わせデータはCRMに連携し、営業部門で顧客分析に活用。
結果:
自動応答対応率は全体の65%に達し、サポート人員の配置最適化が可能に。問い合わせデータからリピーターの購入傾向が可視化され、DM・メール施策のCTR(クリック率)は導入前比で約1.4倍に向上。店舗スタッフも「AIで対応履歴が見えるようになり、接客の質が上がった」と好評です。
活用のポイント
カスタマーサポートAIの導入を成功させるには、以下の3つのポイントを押さえることが重要です。
1. 情報を“活用可能な形”に整える
チャットログや問い合わせ履歴があっても、それがバラバラのツールに分散していては意味がありません。まずはCRMやSFAツールなどと連携させ、一元的に活用できる環境を整えることが前提です。
2. 小さく始めて段階的に広げる
AI導入は一度にすべての業務を自動化するものではありません。まずは「問い合わせの分類」「メールテンプレート提案」など、業務の一部からスタートし、現場との相性を見ながら徐々に適用範囲を広げるのが現実的です。
3. 人間の判断を残す
AIの提案は“仮説”です。最終的な判断や調整は営業担当者自身が行い、人の感性と経験を活かす設計にしておくことで、信頼性と柔軟性が両立します。
どんなツールを使えばいい?おすすめAIツール3選
Zendesk + Answer Bot
Zendeskは問い合わせ管理の定番ツール。Answer Botを組み合わせることで、チャット対応の自動化や問い合わせの傾向分析が可能です。SalesforceやHubSpotとの連携で、営業チームとの情報共有もスムーズになります。
Intercom
チャットベースのカスタマーサポートAI。ユーザーのサイト訪問時に自動で話しかけたり、質問に応答するだけでなく、見込み客の情報を収集し営業に引き継ぐこともできます。
HubSpot(Service Hub)
マーケ・営業・サポートを1つのプラットフォームで管理できるオールインワン型CRM。問い合わせ内容に基づき、営業部門に「次に取るべき行動」を通知する機能が充実しています。
今すぐできるアクション3つ
- 顧客対応データ(チャットログ、問い合わせ内容、サポート履歴など)を棚卸ししてみる
- 無料トライアルのあるAIツールを1つ導入して、小規模での実験をスタート
- 営業チーム・サポートチームで、AIに任せたい業務や課題を共有・洗い出す
まとめ
カスタマーサポートAIは、営業活動の質を高め、チーム全体の生産性を押し上げる革新的なツールです。特に、属人化や情報の分断、リソース不足に悩む企業にとっては、“最初に導入すべきAI領域”とも言えます。
まずは小さく導入し、現場の業務とフィットさせることで、成果と時短を同時に実現する営業体制が作れるでしょう。
AIを味方につけて、「判断と対応に迷わない営業チーム」へ、今こそ進化を。